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脳天逆落し柚子胡椒/食堂おがわ

 

 京都・西木屋町にある予約が取れない店として有名な「食堂おがわ」。料理レシピをまとめた本も出版されている店主の小川真太郎さんは、「脳天逆落し柚子胡椒」の作り方を紹介していた。
「僕は九州の福岡出身で、僕のおばあちゃんが自家製の柚子胡椒を送ってくれていたんです。おばあちゃんが歳をとってつくれなくなり、店で使うぶんが一般の家庭でつくれる量ではなくなってしまったので、おばあちゃんからつくり方を聞いて、いまは自分で柚子胡椒をつくっています。うちの柚子胡椒は、家で受け継いだおばあちゃんの味なんですよ」(小川さん、以下同)
 塩辛いイメージもある柚子胡椒だが、小川さんがつくる無添加の柚子胡椒は、塩気よりも柚子の風味が際立っている。
「柚子胡椒のレシピはいたってシンプルで、唐辛子と柚子の皮を合わせて、塩を入れるだけ。家庭でつくるときは、塩分濃度を高くして常温保存できるようにすることが多いですが、いまは冷凍技術が発達しているので、僕は塩分濃度を5%にして塩気を抑えています」

 

 青い島唐辛子が冷凍のものしか残っていなかったため、この撮影では伏見唐辛子で柚子胡椒のつくり方を教えていただいた。

 

 夏にしか収穫できない青い唐辛子は、大量に仕入れて冷凍保存。柚子が出回る秋口まで、仕込みのタイミングを待つ。
「唐辛子と柚子を合わせて柚子胡椒にしたものを冷凍保存すると、不思議とおいしくなくて、旬で仕入れた唐辛子と柚子を冷凍しておいて、直前で合わせたほうがいいんです。毎年ひと夏で200キロから300キロくらい唐辛子を仕入れて、柚子胡椒が切れてきたらその都度、仕込んでいく。たくさんつくることで原価も下がって、うちの店で一年使うぶんを残しても、みなさんにお売りできるくらいの量がつくれるようになりました」
 小川さんは定番の料理でも常にレシピをアップデートしていて、柚子胡椒のつくり方にも変化があった。
5年ほど前に本を出したときは、韓国唐辛子を使っていましたが、辛さにブレがあって、ぜんぜん辛くないものや、逆にめちゃくちゃ辛いものがありました。いまは島唐辛子という沖縄原産の唐辛子を使っています」
 食堂おがわの「柚子胡椒」は、蓋を開けた瞬間に広がるフレッシュな柚子の香りが印象的で、柚子胡椒を仕込む厨房も、柚子のいい香りに包まれていた。
「柚子の皮をひとつひとつ丁寧に削いで、柚子1に対して島唐辛子はその倍の量を加えます。唐辛子の種を取ってつくる方もいますが、僕はマイルドな辛さを求めていないので、種もそのまま一緒に入れています。ミキサーで回すときは、熱で唐辛子のきれいな色が飛んでしまわないように気を遣いますね」

 

ミキサーで唐辛子を攪拌すると、ぱらばらと種が落ちてくる。ピーマンの香りに似た唐辛子の香りが漂う。

 

 ペースト状の柚子胡椒が多いなか、小川さんが唐辛子の色味にまで気配り、「脳天逆落し柚子胡椒」は出汁やつゆに混ぜると、ほろりとほどけて溶けていく。京都内では、食堂おがわの「柚子胡椒」を使っている料理屋やパン屋もあり、柚子胡椒と相性がいいメニューは多彩だ。
「市販の柚子胡椒だと増粘剤が入っていたりして、出汁に溶けないんですが、僕の柚子胡椒はペースト状になる手前で止めているので、柔らかい。鍋のポン酢、餃子のタレや焼き肉のタレに入れてもおいしいですが、ご家庭で気軽に試すなら、市販のめんつゆに入れて食べてみてください。そうめんのつゆに柚子胡椒をどばっと入れると、あと引くうまさです。味噌汁にも合うという声もあって、味噌の口に残る感じをさっぱりさせてくれます」

 

 

京都の人気店「食堂おがわ」の店主・小川さん。明るく気さくな人柄と、真摯に料理とお客様と向き合う姿に、小川さんのファンも多い。

 

  食堂おがわの「柚子胡椒」は、青い唐辛子のものと別に、赤い唐辛子バージョンもある。見た目の赤さに驚くが、青い柚子胡椒も赤い柚子胡椒も、ぐっと長くつづく辛さは変わらない。
「青い柚子胡椒はみなさん、食べ慣れていると思いますが、青い唐辛子の良さはフレッシュ感や若々しさがあって、ぱちんとくるような辛味の激しさがあるところ。ただ冷蔵だと香りと味がぼやけてくるので、冷凍保存がおすすめです」
 青い柚子胡椒は売り切れたあとは、赤い唐辛子を使った柚子胡椒の仕込みが始める。一年のなかで、青い柚子胡椒と赤い柚子胡椒の両方を楽しめるのも嬉しい。
「どんな唐辛子もずっと枝につけていると赤くなります。青い唐辛子に比べると、紅葉した赤い唐辛子は、水分量が減ってしまいますが、風味だけでいうと、赤い唐辛子のほうが豊かですね。赤い唐辛子のほうが本来の唐辛子の味を感じられますし、しっかりと熟成しているぶん、冷蔵庫での保存でも味の変化が少ないです」

 

 小川さんの趣味は版画彫りで、柚子胡椒の包装紙には、小川さんお手製の版画がプリントされている。

 

「青い柚子胡椒のときには青いインクで、赤い柚子胡椒のときは赤いインクを使っています。いまは年間2000本ほど柚子胡椒をつくっているので、印刷していますが、以前はぺたんと版画でスタンプしていました。たまに間違えて発注しちゃって、青い柚子胡椒に赤インクのときもあります(笑)」
 どちらの味も試してみたくなる食堂おがわの「柚子胡椒」。瑞々しい柚子と唐辛子の風味際立つ柚子胡椒で、きっとワンランク上のおうちごはんが楽しめそうだ。
 
エメラルドグリーンが美しい青柚子胡椒、鮮やかなオレンジの赤柚子胡椒と、小川さんデザインの版画が映えるパッケージ。

 

【店舗情報】
食堂おがわ
京都府京都市下京区船頭町204 1F

 

【商品情報】

食堂おがわ/脳天逆落し柚子胡椒